法人にビルの一室を賃貸していましたが、最近、契約当初とは会社の株主も役員もすっかり入れ代わってしまいました。
このような場合、実質的には転貸と同様であるとして賃貸借契約を解除できるでしょうか?
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
1 賃借人の株主役員等の変更の問題点
賃借人企業の株主や取締役等の役員が大幅に入れ代わり、賃貸人が賃貸借契約を締結した際に信頼していた当事者がすっかり入れ代わった場合には、賃貸人としては、信頼関係が必ずしも構築されていない相手方と契約を継続するということになりかねません。また賃料が今後も滞りなく支払われるかについても不安を感じることもあり得るものと思われます。
そこで、賃借人企業の株主や役員等が大幅に変更した場合には、賃借人は実質的には別人となったのと同様であると考えて、賃借権の無断譲渡ないしは賃借物の無断転貸に該当するものとして、賃貸借契約を解除することができないかということが問題となります。
2 株主や役員の変更は無断譲渡・転貸となるか
ここで問題となるのは、賃借人企業の株主や役員が大幅に変動したとしても、賃借人企業自体はその前後を問わず、ずっと同一の法人であるということです。賃借人企業がいわゆる上場会社である場合や、上場はしていない場合でも大規模会社であるような場合には、例え株主や役員に大幅な変動があったとしても、会社の経営状態に変化がなければ、格別に法人としての大きな変化があるわけではなく、賃借人の同一性に疑問をもつことは通常はあり得ないことです。
法人としての法人格自体が変わらないという点では小規模な会社でも同様です。しかし、小規模な会社の場合には、取引先はその会社の代表取締役の個性を見て取引を行っていますし、賃貸借契約においても、賃貸人は賃借人となる会社の代表取締役を見て貸ビルのテナントとして受け入れるべきか否かを検討しており、代表者の個性を信頼して賃貸借契約を締結しているのが通常だと思われます。
そうであるとすれば、そのような会社の株主から取締役等の役員までが大幅に変更してしまった場合には賃貸借契約締結当初の信頼関係に重大な影響を与えるものであり、実質的には賃借人の変更と見るべきであって、賃借権の無断譲渡ないしは賃借物の無断転貸と評価すべきではないかということが問題にされてきました。
3 会社の構成員等の変更と無断譲渡に関する裁判例
この点については、平成8年に最高裁がこの問題に対する判断を示し、この問題に対する原則的な基準が示されるに至っています(最高裁平成8年10月14日判例タイムズ925号176頁) 。最高裁の判断は、「賃借人が法人である場合において、右法人の構成員や機関に変動が生じても、法人格の同一性が失われるものではないから賃借権の譲渡には当たらない。」というものでした。
この論理はいわゆる大規模な会社には当てはまっても、小規模な企業には必ずしも当てはまらないのではないかという点について、最高裁は、「右の理は、特定の個人が経営の実権を握り、社員や役員が右個人及びその家族、知人等によって占められているような小規模で閉鎖的な有限会社が賃借人である場合についても基本的に変わるところはない。」との判断を示しています。
4 貸主側の対応策
上記のように、最高裁は賃借人が小規模会社であったとしても、賃借人会社の株主や役員が変動しても原則として、賃借権の無断譲渡ないしは転貸等に該当するものではないとの原則を示しています。
しかし、事業系ビル賃貸借の実務においては、賃借人がいわゆる小規模会社である等の場合には、貸主側は賃借人企業の代表者の個性に着目し、ビルのテンナントとして受け入れるか否かを検討し判断しているのが実情と思われます。
この場合に、株主がほとんどすべて入れ代わってしまい、それに伴い取締役等の役員もほとんど入れ代わったという場合には、貸主としては、このまま賃貸借契約を継続すべきかという判断を迫られることになりますが、最高裁の判例では無断譲渡ないしは転貸に該当しないとされていますので、このままでは賃貸借契約を解除することはできません。そこで、このような場合に備えて、賃貸借契約において、
1 賃借人は、賃貸人の書面による承諾を得ることなく、取締役その他の役員又は株主の変更等資本構成を変動することはできない。
2 賃借人が前項の規定に違反した場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除することができる。との特約を設けておくことが考えられます。
実際テナントビルを所有していたが賃借人の法人がM&Aで第三者に法人を譲渡するという例があり株主、代表者や役員、スタッフが全て変更になると法人名は同じでも全く別の会社になる例はあります。
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